概要
BnBr(ベンジルブロミド、臭化ベンジル)はOHの保護に利用される代表的な試薬の1つである。酸、塩基など様々な条件に耐えることができ、外れにくい保護基として知られている。脱保護は還元条件で行われ、主にPd/C(パラジウム炭素、パラジウムカーボン)を用いた接触還元で脱保護される。
反応機構
①保護反応
・塩基を用いた反応
反応は一般的なSN2反応である。
OHのプロトンを塩基が引き抜いてアルコキシドが生成する。このアルコキシドがBnBrに攻撃してSN2反応を起こすことで、目的のBn保護体が生成する。
※BnBrには催涙性があるので扱う際は注意(ドラフト内で扱う)。
・酸化銀(Ag2O)を用いた反応
想定される反応機構は以下の通り。
塩基を使用した反応と同様の機構であるが、Ag2Oは塩基としてアルコールの脱プロトン化を起こすだけでなく、銀-ハロゲン相互作用によりBnBrを活性化し、Brの脱離能を向上させると考えられる。AgBr及びAgOHが副生し、AgOHはAg2OとH2Oに不均化する。
一般的な塩基よりも高価な酸化銀を化学量論量必要とするものの、ジオールのベンジル保護において、高い選択性を発言する例が報告されている。
※不均化:同一種類の化学種(多くは分子)が2個以上互いに反応し、2種類以上の異なる種類の生成物を与える化学反応
また、上記の反応は触媒量のハライド塩の添加により、反応効率が向上する。この場合、ハライド塩(n-Bu4NIやKIなど)とAg2Oが反応し、安定なハロゲン化銀の生成を駆動力として、塩基性の強いAgO–を発生する。これによりアルコールの脱プロトン化が進行し、アルコキシドを与え、Ag2Oにより活性化されたBnBrと反応することで、Bn保護生成物が得られる。
②脱保護反応
脱保護は、主にPd/C(パラジウムカーボン)を用いた接触還元で行われる。想定される反応機構としては、以下の通り。
まず、Bn保護体(ベンジルエーテル)がPd(0)に酸化的付加する。その後、水素と二水素錯体を形成し、中間体Aとなる。ここから、アルコールが脱離するとともにヒドリドが配位する。その後、還元的脱離により、Pdが再生し、トルエンが生成するものと思われる。
※水素雰囲気に暴露させた後のPd/Cは発火する可能性があるため、使用、後処理には注意が必要(特に、Pd/Cが付着したろ紙などに注意)。水を満たした密閉容器などで保管する。
近年における使用例
①
アセトニトリル 1000 mLに原料 5.0g (23.25 mmol)と炭酸カリウム 6.44g (46.6 mmol)を加えて混ぜたものに、ベンジルブロミド 3.97g (23.21 mmol)を加えた。続いて、この溶液を2時間還流した。還流後、冷ましてからジエチルエーテル100 mLでクエンチし、フィルターで減圧濾過した。濾過により、目的の化合物を91%の収率で得た。
②
原料 2.60g (22.0 mmol)とベンジルブロミド 5.2 mL (44 mmol)をジエチルエーテル32 mLに加えた。ここに、酸化銀(Ⅰ)を10.1g (43.6 mmol)加え48時間還流させた(35℃)。室温まで冷ました後、セライト濾過し、得られた溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させてから溶媒留去した。これをカラムで精製し、69%の収率で目的物を得た。
③
試薬価格
※下記は一例です。販売会社、時期、グレードなどによって価格は異なります。
BnBr(ベンジルブロミド、臭化ベンジル):100 g / 7,000円程度(CAS:100-39-0)
Pd/C(Pd 10%)(パラジウム炭素、パラジウムカーボン):5 g / 10,000円程度(PdのCAS:7440-05-3)
参考文献
[https://doi.org/10.1002/cctc.201403035]
酸化銀を用いた反応
・Tetrahedron Letters. 1997, 38, 34, 5945-5948
・J. Org. Chem. 2005, 70, 3, 907–916
・[https://ja.wikipedia.org/wiki/不均化]
使用例
①J. Med. Chem. 2017, 60, 9, 3618–3625
②、③Org. Lett. 2017, 19, 13, 3346–3349
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