水素化ジイソブチルアルミニウムによる還元(DIBAL、DIBAH、DIBAL-H)

概要

水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL、DIBAH、DIBAL-H)は、上図のような二量体で存在する還元剤であり、アルデヒド、ケトン、エステル、ニトリルといった広い範囲の化合物を還元することができる。

低温が必要など条件は厳しいが、エステルの部分還元ができることが特徴である。

その他、よく利用される還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH₄)水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4がある。

反応機構

①カルボニル化合物の還元

まず、ルイス酸であるAlに対し、アルデヒドやケトンのカルボニル酸素が配位する。次に、DIBALのヒドリドがカルボニル基の炭素に求核攻撃することで、中間体Aが生成する。その後、クエンチと同時にプロトン化され、目的のアルコールを得る。

クエンチには、ロッシェル塩水溶液(酒石酸カリウムナトリウム水溶液を使用するのが一般的である。反応後のAl化合物は、ロッシェル塩とキレートを形成する。

※ルイス酸:電子対を収容できる空軌道を持つ原子を含むもの(ここではAl)

②エステルの部分還元(低温条件)

①と同様の機構で中間体Bを形成した後、クエンチと同時にプロトン化されたアルコールが脱離し、その後、目的のアルデヒドを得る。

 

この反応は、アセトン+ドライアイス(-78℃)などの低温条件で行う必要がある。低温を維持しない場合、以下のように、中間体BからRO-Al(isobutyl)2が脱離する反応が進行してしまう。

上記の反応では、クエンチで加えているH2O(プロトン源)は必要としない。

その後、①同様の反応が続くことで、最終的にアルコールまで還元が進む。

なお、α,β-不飽和エステルの場合は、低温であってもアルコールまで還元が進行しやすい(これが実際の使用例で示されている反応である)

※アルキンに対し、cis付加することも知られている

近年における使用例

エステル 4.94 g(11.0 mmol)を110 mLのジクロロメタンに加え、-78℃に冷却した。ここにDIBAL 16.1 mL(1.5M in toluene, 24 mmol)を滴下し、-78℃を維持したまま30分撹拌した。その後、ロッシェル塩水溶液250 Lでクエンチし、室温で12時間撹拌した。この混合液をジクロロメタンで抽出(200 mL✕3)して溶媒留去した。これをカラムで精製し、目的のアルコール 4.2 gを得た。(94%)

エステル 9.0 g (21.0 mmol)を、脱水したTHF 240 mLに加え、-78℃に冷却した。ここにDIBAL 55.2 mL(0.93M in toluene, 51.0 mmol)を、-78℃を維持したまま滴下した。その後、溶液を0℃まで昇温し、0℃を維持したまま1時間撹拌した。撹拌の後、水を注いでクエンチし、室温で1時間撹拌した。得られた溶液をセライト濾過し、溶媒留去したものをカラムで精製して目的のアルコールを得た。(quant)

エステル 1000 mg (4.66 mmol)を40 mLの脱水n-pentaneに加え、-100℃に冷却した。ここにDIBAL 5.27 mL(1M in CH2Cl2, 5.27 mmol)を、0.18 mL/minの速さで、-100℃を維持したまま滴下した。滴下の後、1時間-100℃で撹拌した。得られた溶液が-90℃になるまで昇温し、飽和塩化アンモニウム水溶液でゆっくりと希釈した。得られた溶液を、激しく撹拌しているロッシェル塩水溶液に注ぎ、透明な二層液になるまで室温で撹拌した。水層をジエチルエーテルで3回抽出し、有機層と合わせて溶媒留去した。これをカラムで精製し、目的のアルデヒドを816 mg (4.43 mmol)得た。(95%)

※アルデヒドをアルコールまで還元しないよう、-100℃の低温で反応させる、DIBALをゆっくり加える、微酸性の塩化アンモニウム溶液でアルコールを脱離させやすくする、などの工夫をしていると思われる。

試薬価格

※下記は一例です。販売会社、時期、グレードなどによって価格は異なります。

水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL、DIBAH、DIBAL-H):100 mL / 9,000円程度

※ヘキサン、THF、トルエンなどで1M程度に希釈された溶液で販売されている(CAS:1191-15-7)

参考文献

使用例

J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 32, 9554–9555

Org. Lett. 2013, 15, 14, 3666–3669

Org. Lett. 2014, 16, 16, 4062–4065

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