概要
LiAlH4(lithium aluminium hydride, LAH)は、広い範囲の化合物を還元することのできる強力な還元剤として知られる。
還元力は、NaBH4と比べてはるかに強く、アルデヒド、ケトンに加えて、エステル、カルボン酸、アミドなどの還元も可能である。
水と爆発的に反応して水素を発生させるため、扱いには注意が必要である。
反応機構
①カルボニル化合物の還元
・ケトンの還元
まず、Li+への配位により活性化されたケトンに対しAlH4–のヒドリドが求核付加すると同時に、酸素-アルミニウム結合が生成することで中間体Aが生じる。その後、プロトン化(加水分解)によって目的のアルコールが生成し、水酸化アルミニウムとリチウム塩が副生する。
また、プロトン化の際、アルミニウム電子上のヒドリドは水素に変換される(緑の枠内)。
中間体Aは依然として活性なヒドリドを有しているため、LiAlH4 1当量につき最大4当量のカルボニル化合物を還元可能であるが、実際の使用例においては原料に対し1当量以上用いることも多い。
・エステルの還元
エステルは、ケトンと同様の反応を経て中間体Aとなる。ここから、アルコキシドイオンが脱離することで、アルデヒドとアランが生じる。脱離したアルコキシドイオンは、Liイオンと塩を形成する。
生じたアルデヒドが再度同様の反応を経て中間体Bとなる。これがプロトン付加されることで、目的のアルコールが生成する。アランは加水分解により水酸化アルミニウムとなる。
・カルボン酸の還元
カルボン酸が出発物質の場合は、最初にカルボン酸のリチウム塩が生じる。これに対してエステルと同様にLiAlH4との反応が進行しエステルの場合とは逆にアルミニウムと結合した酸素原子が脱離することでアルデヒドを生成する。
②アミド化合物の還元
まず、アミドに対しケトン、エステルと同様の反応を経て中間体Dが生じる。この中間体Dから酸素原子が脱離しイミニウムイオン中間体を生成する。イミニウムイオンに対してヒドリドが付加することで目的のアミンが生成する。
アミドアニオン(R2N–)の脱離はアルコキシドアニオン(RO–)と比べて困難であるため、エステルの場合と異なり、中間体Dからアミドアニオンが脱離しアルデヒドが生成する反応は進行しない。
※1級アミドの場合、窒素上のプロトンが活性プロトンと見做せるので、これとヒドリドが反応し、カルボン酸と類似した反応になると考えられる。
③ニトリル化合物の還元
まず、ニトリルに対しAlH4–のヒドリドが求核付加することで中間体Eが生じる。次に、この中間体Eの分子内で再びヒドリドが求核攻撃を行い、中間体Fが生成する。これがプロトン付加(加水分解)されることで、目的のアミンが生成する。
※後処理について
反応後の後処理では、LAHを分解した上でアルミニウムを含んだ沈殿物を除去する必要がある。
詳細は、下記の「近年における使用例」の実験手順内に記載する。
近年における使用例
①
0 ℃の脱水ジエチルエーテル 470 mLに、エステル 27 g (94.7 mmol)とLiAlH4 4.3 g (113.6 mmol)を加え、0 ℃で4時間攪拌した。
※反応後の後処理
4.3 mLの水、15% NaOHaq 4.3 mL、水 12.9 mLを、この順にゆっくりと滴下した。その後、室温まで昇温して30分攪拌した。これをフィルターろ過し、700 mL のジエチルエーテルでフィルター上の固体を洗浄した。回収した濾液をセライトろ過し、セライトを同様にして300 mLのジエチルエーテルで洗浄した。回収した溶液から溶媒を留去した後、得られたものを酢酸エチル 20 mLに分散させ、ヘキサン 300 mLで希釈し、目的の固体を得た。(79%、複数ステップの最終物)
②
窒素ガス下の条件の下、THF 360 mLにアミド 17 g (36 mmol)を溶解させ、THFに溶解させたLiAlH4をゆっくりと滴下した(2.4 M、45 mL、109 mmol)。還流条件で60時間攪拌し、0 ℃まで冷却した。
※反応後の後処理
水4.5 mL、15% NaOH aq 4.5 mL、水 13.5 mLを、この順にゆっくりと滴下した。滴下の後、多量の(①の後処理参照)ジエチルエーテルで希釈し、MgSO4で脱水した。これをフィルターろ過して得たものを再結晶することで、目的物を16 g得た (97%)。
試薬価格
※下記は一例です。販売会社、時期、グレードなどによって価格は異なります。
LiAlH4:100g/20,000円程度(CAS:16853-85-3)
参考文献
基本文献
Org. React. 1951, 6, 469-509.
Reinhard Bruckner, Organic Mechanisms: Reactions, Stereochemistry and Synthesis, 1996.
Journal of the American Chemical Society 1976 98 (18), 5524-5531.
使用例
①Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 11, 2464–2469.
②Org. Lett. 2018, 20, 5, 1272–1274.