ピニック酸化(アルデヒドの酸化)

概要

アルデヒドをカルボン酸へ酸化する手法の一つ。

条件が温和で、官能基適応性に優れることから、定法として使用される。 

反応機構

亜塩素酸ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムが反応し、活性種の亜塩素酸が生じる。

亜塩素酸のプロトンに対し、アルデヒドが求核攻撃することで、亜塩素酸イオンが生じる。プロトンを奪ったアルデヒドに対し、亜塩素酸イオンが求核付加し、中間体Aが生成する。

その後、中間体Aから、C=O二重結合の形成、O-Cl結合の開裂、プロトンの引き抜きの3つの反応が協奏的に起こり、目的物であるカルボン酸と副生成物である次亜塩素酸が生成する。

 

2-methyl-2-buteneは、副生成物の次亜塩素酸を除去する(スカベンジャーという)役割を持つ。

次亜塩素酸は反応性が高く、オレフィンとクロロヒドリンを生成するなど、望ましくない副反応の原因となる。

 

近年における使用例

t-BuOH 5 ml に溶解させたアルデヒド 0.184 mmol に対し、2-methyl-2-butene 0.2 ml (1.85 mmol) を加えて室温で攪拌した (文中に記載はないが、2-methyl-2-buteneが揮発してしまう場合、氷冷するとよい)。ここに、それぞれ 1ml の水に溶解させた亜塩素酸ナトリウム 67 mg (0.74 mmol) と リン酸二水素ナトリウム一水和物 89mg (0.74 mmol) を加えて室温で10時間攪拌。容器の蓋には針で穴をあけておいた。反応後、酢酸エチルで分液し、有機層を10%塩酸とbrineで洗浄、その後カラムにより単離した。

t-BuOH 450 ml に溶解させたジアルデヒド 17.5 mmol に対し、2-methyl-2-butene 11.15 ml (105 mmol) を氷冷下で加え、続けて、それぞれ15 mlの水に溶解させた亜塩素酸ナトリウム 7.3 g (80.6 mmol) とリン酸二水素ナトリウム二水和物 10.94 g (70.2 mmol) を加えて室温で12時間攪拌。t-BuOHを留去し、0.1N のNaOH水溶液 150 ml を加え、ジクロロメタンで洗浄した。その後、HClによってpHを1にし、酢酸エチルで分液。有機層をbrineで洗浄してカラムにより目的物を単離した。

 

※いずれも2-methyl-2-buteneの揮発に注意

 

試薬価格

※下記は一例です。販売会社、時期、グレードなどによって価格は異なります。

2-methyl-2-butene : 100 ml / 10000円程度 (CAS:513-35-9)

NaClO2 : 100 g / 3000円程度 (CAS:7758-19-2)

NaH2PO4 : 100 g / 500円程度 (CAS:7558-80-7)

 

参考文献

基本文献

Acta Chem. Scand. 1973, 27, 888-890.

J. Org. Chem. 1980, 45, 4825-4830.

Tetrahedron, 1981, 37, 2091-2096.

R. Soc. open sci. 2020, 7, issue 2, ID:191568

使用例

Org. Lett. 2018, 20, 13, 4111-4115.

Org. Lett. 2019, 21, 22, 9089-9093.

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